標準時間とは

標準時間とは、決められた作業条件のもとで、その作業に習熟した作業者が標準的なペースで作業を行った場合に、その作業を完了するために必要な時間のことです。個人の速い・遅いに左右されない「本来この作業にかかるべき時間」の基準値であり、生産計画・人員配置・原価計算・タクトタイムとの比較など、多くの生産管理の土台に使われます。

現場で実際にストップウォッチを当てて測った時間(観測時間)は、測った人の作業ペースやその日の調子によってばらつきます。標準時間は、この観測時間をそのまま使うのではなく、後述する「レイティング」と「余裕率」という2つの補正を加えて算出します。

標準時間の構成: 正味時間と余裕時間

標準時間は、大きく分けて次の2つの要素で構成されます。

要素 内容
正味時間 作業を進めるうえで必ず発生する時間。実際に加工・組立を行う「主体作業時間」と、材料の準備・段取りなど主体作業に付随する「付随作業時間」からなる
余裕時間 正味時間には含まれないが、作業を継続するうえで避けられない時間。用達(トイレ等)・疲労回復・打ち合わせ・軽微な設備トラブル対応などが該当する

標準時間 = 正味時間 + 余裕時間

余裕時間をどの程度見込むかは、次に説明する「余裕率」という考え方で正味時間に対する割合として管理します。

標準時間を設定する主な手法

標準時間の設定方法には、いくつかの手法があります。現場でよく使われる代表的な手法は次の3つです。

手法 考え方 特徴
実績時間法 過去の生産実績(生産数と実働時間)から平均的な1個あたりの時間を逆算する 手軽だが、実績にすでに含まれるムダ・停止時間も引き継いでしまいやすい
時間観測法(ストップウォッチ法) ストップウォッチや動画で実際の作業時間を複数回観測し、レイティングで補正して正味時間を求める 現場の実態に即した時間が得られる。観測者の技量とレイティングの妥当性が精度を左右する
PTS法(既定時間標準法) 「手を伸ばす」「つかむ」など基本動作ごとに定められた時間値(MTM法・WF法等)を積み上げて時間を算出する 作業前でも時間を見積もれ、レイティングが不要。動作分析の専門知識と手間を要する

製造業の現場改善では、比較的取り組みやすい時間観測法が広く使われています。以降は、この時間観測法を前提に解説します。

レイティング(作業評価)とは

時間観測法で観測した時間(観測時間)は、そのままでは標準時間になりません。観測した作業者のペースが「標準的なペース」より速いのか遅いのかを評価し、補正する必要があります。この補正作業をレイティング(作業評価)と呼びます。

正味時間 = 観測時間 × レイティング係数

レイティング係数は、標準的なペースを100(基準)として、観測した作業者のペースが基準よりどれだけ速いか・遅いかを100分率や指数で評価するものです。例えば観測時間が20秒で、レイティング係数が110(標準より1割速い)であれば、正味時間は20秒×1.10=22秒と補正します。

ポイント: レイティングは評価者の主観が入りやすい工程です。評価者を固定する、複数人で評価をすり合わせる、評価基準(動作の速さ・的確さの目安動画等)を明文化しておくといった工夫が、標準時間の精度とブレを左右します。

余裕率の考え方

正味時間が求まったら、次に余裕時間を加えます。余裕時間は個別に測るのが難しいため、実務では正味時間に対する割合(余裕率)としてあらかじめ定めた値を使うのが一般的です。余裕率は、性質によっていくつかの種類に分けて考えます。

  • 人的余裕(用達余裕): トイレ・水分補給など生理的に必要な中断
  • 疲労余裕: 作業による疲労を回復するために必要な休止
  • 職場余裕: 材料待ち・軽微な設備調整・打ち合わせなど、職場の都合で発生する中断
  • 管理余裕: 作業指示の確認・簡単な清掃など、管理上必要となる時間

標準時間 = 正味時間 ×(1 + 余裕率)

例えば正味時間が22秒、余裕率を15%とすると、標準時間は22秒×1.15=約25.3秒となります。余裕率は業種・職場慣行によって差があるため、自社での過去実績や労使協議を踏まえて水準を決めておくことが重要です。

観測時間20秒にレイティング係数1.10をかけて正味時間22秒を求め、余裕率15%を加えて標準時間25.3秒を導く流れ図
観測時間から標準時間までの組み立て方(本文の数値例)

標準時間設定の実務手順5ステップ

ステップ1: 対象作業を要素作業に分解する

「ワークをつかむ」「治具にセットする」「起動ボタンを押す」といった、意味のあるまとまりの単位(要素作業)に作業を分解します。この分解の粒度は、標準作業組合せ票づくりと共通する作業のため、あわせて実施すると効率的です。

ステップ2: 複数サイクル観測し、レイティングを行う

要素作業ごとに複数サイクル分の時間を観測し、それぞれにレイティングを行って正味時間を算出します。1回の観測では偶然のばらつきを拾ってしまうため、複数サイクルの平均値・頻出値を採用します。

ステップ3: 余裕率を加算する

自社で定めた余裕率を正味時間に加算し、要素作業ごとの標準時間を算出します。要素作業の標準時間を積み上げると、その工程全体の標準時間になります。

ステップ4: 標準時間を確定し、文書化する

算出した標準時間を、標準作業組合せ票・作業手順書に反映し、いつ・誰が・どの条件で測定したかとあわせて記録します。標準時間だけを数値で残しても、測定条件が分からなければ後から見直せません。

ステップ5: タクトタイム・工程別能力表と照合する

確定した標準時間を、タクトタイム工程別能力表と突き合わせ、ラインとして無理のない組み立てになっているかを検証します。標準時間はここで初めて、ライン設計に使える資料になります。

標準時間がずれる・使われなくなる原因

せっかく設定した標準時間も、次のような理由で現場の実態と乖離していきます。

  • レイティングの基準が曖昧: 評価者によって係数の付け方が異なり、工程間・時期間で数値の意味が揃わなくなる
  • 余裕率が現場の実態と合っていない: 設備や作業条件が変わっても、以前決めた余裕率をそのまま使い続けてしまう
  • 改善後に測り直されない: 治具改善やレイアウト変更で実際の時間が変わっても、標準時間の記録が更新されない

ポイント: 標準時間は一度決めたら固定する数値ではなく、改善のたびに測り直す前提の数値です。測定のたびに一から観測し直す負担が更新を止めてしまう最大の要因になりやすいため、観測そのものの負担軽減が形骸化を防ぐ鍵になります。

作業動画×AIで時間観測をやり直しやすくする

標準時間設定でもっとも工数がかかるのは、複数サイクル・複数の要素作業にわたる時間観測そのものです。ストップウォッチでのその場計測は、後から見返すことができず、レイティングの妥当性を後日検証することも困難です。

AI Manual Coachは、作業動画をアップロードするだけでAIが工程を要素作業に自動分解し、テキスト・画像付きの作業手順書を生成する、製造業向けのAIマニュアル自動生成システムです。作業の様子を動画として残しておけば、複数サイクル分を後から何度でも見返して時間を数え直せるため、標準時間の見直し・レイティングのすり合わせにかかる工数を軽くできます。

注意: AIが標準時間やレイティング係数を自動で算出する機能ではありません。あくまで、時間観測のもとになる作業動画を要素作業へ分解し、見返しやすい形に整理する支援という位置づけです。レイティング・余裕率の判断や標準時間の最終確定は、引き続き人が行う前提でご活用ください。

標準時間づくりの土台となる時間観測を、作業動画で楽にする

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まとめ

標準時間は、正味時間(主体作業時間+付随作業時間)に余裕時間を加えたもので、観測時間にレイティングを乗じて正味時間を求め、そこに余裕率を加算して算出します。要素作業への分解、複数サイクルの観測とレイティング、余裕率の加算、標準時間の確定、タクトタイム・工程別能力表との照合という5ステップで設定し、改善のたびに測り直す運用が形骸化を防ぎます。時間観測そのものに工数がかかっている場合は、作業動画を撮って後から見返せるようにするという選択肢もあわせて検討してみてください。